大阪地方裁判所 昭和46年(わ)3487号 判決
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〔判決理由〕(罪となるべき事実)
被告人らは、大阪市立大学経済学部の学生であるが、昭和四四年一〇月二一日の国際反戦デーを前にして日本電信電話公社大阪中央電報局の一部労働者が「一〇・二一中電マツセンスト」等の主張を掲げてストライキに入つたことをしるや、同電報局の局舎内に立入りこれら一部の労働者のストライキを支援し、その活動の正当性を同電報局の労働者に訴えようと企図し、被告人ら全員共謀のうえ、同年同月二〇日午後一時一〇頃、大阪市北区玉江町一〇二六番地所在の同電報局々舎に正面入口から立入り、警備にあたつていた同局受付配達部長武内嘉信の制止を無視して同局舎塔屋上にあがり、もつて故なく同電報局々長宮島富雄の看守する同局々舎内に侵入したものである。
(弁護人の主張に対する判断)
一、弁護人は、被告人らの本件行為には建造物侵入罪の構成要件該当性が存在しないとし、その理由として、
(1) 被告人らの中央電報局々舎の本件立入り行為は何らの違法な目的を有するものではない。被告人らは反安保斗争の中で反動的な潮流に抗して斗つている同局の一部労働者に対し連帯の意思表明を行うため本件行動に出たものであり、その行動はいかなる違法の意図を含むものではなく、被告人らの行為は国民誰しもが有する正当な言論活動の枠を超えるものではない。
(2) 中央電報局々舎は、一般の住居、工場と異なり官公署の庁舎に類似する建造物であるから一般公衆が一定の要件をもつて局舎に立入ることが許されているのであつて、このことは本件当時中央電報局が一部労働者による業務妨害活動に備えて警戒態勢をとつていたことによつて些かも異なるところはない。即ち本件当時中央電報局の当局が右の如き警戒態勢をとつていたとしても、局舎内への一般公衆の立入りを制限する措置はとられておらず、被告人らが同局々舎に立入るに際しても管理者からこれを制止又は阻止された事実はない。
(3) 被告人らの同局々舎への立入りは何等の実力行使を伴うものではなく、その行為は同局の業務を妨害し、或は秩序の攪乱をきたすが如き態様のものではなかつた。
旨主張するので、これらの点について検討する。
まず、日本電信電話公社大阪中央電報局(以下中央電報局という)の局舎の構造、右局舎における業務の特殊性について検討すると、前掲証人武内嘉信の当公判廷における供述ならびに司法警察員作成の実況見分調書および現場写真撮影報告書によれば、中央電報局々舎は地下二階、地上七階屋上に塔屋二階を有する鉄筋コンクリート造建物であり、右建物においては電報の窓口受付、配達、中継等の電報の疎通運用および電信機器の補修等の業務が行われているが、同局舎では通信の秘密を保持する必要から、局舎正面玄関入口受付に監視員をおき、用務を帯びて局舎内に立入ろうとする者に対し監視員に申出るよう掲示し、或は清掃等の業務で局舎に出入りする業者に対しては出入り証を交付するなどして、同局舎内への立入りを制限しており、また局舎内通信室への部外者の入室を禁止し、その旨を掲示していたこと、更に一般公衆の依頼による電報の窓口受付業務は局舎一階の区画された場所で行つており、その出入口は前記正面玄関入口とは別の場所に設置されていたことを認めることができる。
次に、本件発生に至るまでの中央電報局をめぐる諸情勢をみると、<証拠>によれば、昭和四四年九月中旬頃から中央電報局々舎正面玄関前において毎朝同局職員を含む一〇名から三〇名位の者が「中電解体」「一〇・二一マツセンスト貫徹」等の記載のあるビラを同局職員等に配付し、或はシユプレヒコールを行つたりし、同年一〇月三日頃には右のビラ配付等に従事していた一部の同局職員が「中電マッセンスト」を標榜してストライキに入つたりしたため中央電報局当局は過激派グループによつて同局々舎が占拠され公共通信の確保が困難となるような事態も予想されるとして、これらの情勢に対処するため「企業防衛対策」を定めて同月初旬頃から管理職々員を配置して局舎出入口の状況を監視するなどの厳重な警備態勢をとつていたことを認めることができる。
更に、中央電報局々舎に立入つてから後の被告人らの行動およびこれに対し同局のとつた措置についてみると、<証拠>によれば、被告人らは同月二〇日午後一時一〇分頃、中央電報局々舎正面玄関入口から同々舎内へ立入つたが、偶々同入口外で局舎の警備に当つていた同局受付配達部長武内嘉信が被告人らに不審をいだき、これを追掛け同局舎一階エレベーター前ホール付近階段で被告人らに追いつき、被告人らに対し「ちよつと待て」「君達は誰か」と誰何して階段を登ろうとしていた同人らを制止したが、被告人らはこれを無視して階段を登り屋上に至り、更に屋上塔屋の最上部にまで登つたため、同局庁務課長藤原直之は同日午後二時一〇分頃、局舎屋上から被告人らに対し携帯マイクを用いて退去を要求したが、被告人らはこれに応じないで「一〇・二一中電ストを成功させよう」等のシユプレヒコールをくり返し、インターナシヨナルを合唱するなどしたため、午後二時一九分頃警察官が被告人らを建造物侵入の現行犯人として逮捕したことを認めることができる。
ところで刑法一三〇条に故なく人の看守する建造物に侵入するとは、正当な理由がないのに、建造物の看守者の意思に反して建造物内に立入ることをいうのであるが、前示認定の事実関係のもとにおいては、被告人ら四名の局舎立入行為が局舎管理者の意思に反していたことは明白である。
弁護人は本件中央電報局々舎への一般公衆の立入りは自由であつたと主張するが右に認定したとおり同局舎は通信の秘密を保持するという見地から局舎に出入りしようとする者に対し制限が加えられているのであるから、これを一般公衆に公開され、出入りが自由に許されているような官公署の庁舎と同一視することができないのは勿論であり、被告人ら四名は同局において通常予期されるような正当な用務を帯びていたのであれば格別被告人らは、前記認定のとおり中央電報局当局が過激派グループによつて局舎が占拠される虞があるとして警備態勢をとつている最中に、判示認定の如くストライキに入つた同局の一部労働者を支援し、その活動の正当性を同局の労働者に訴える目的をもつて執務時間中の同局々舎に立入つたものであるから、局舎管理者の許諾を予想できる場合でないこと勿論である。なお弁護人は被告人らの本件局舎立入りは平穏に行なわれたと主張するが被告人らは執務時間中に同局の労働者に訴える(具体的には演説などをする)ことを目的として局舎に立入り、その直後同局職員に制止されたにもかかわらずこれを無視して屋上塔屋に登りシユプレヒコールをくり返すなどして中央電報局当局の退去要求にも応ぜず約一時間にわたり右塔屋上に滞留していたのであるから、被告人らの中央電報局々舎への立入りは同局舎の平穏を害する態様のものであるといつて何等妨げないものというべきである。そして更に被告人らの同局舎への立入り行為が言論活動による争議の支援を目的とするものであつたとしても、組合から何の依頼も受けていないのに非組合員たる被告人らが先に認定したごとき目的手段のもとに同局舎に侵入した行為が正当化されるものではないというべきであり、被告人らの本件行為は住居(建造物)侵入罪の構成要件に該当するといわねばならず、弁護人の右主張は採用できない。
二、弁護人は、被告人らの行為が中央電報局の局舎の平穏を害したとしても、その侵害の程度は可罰的な段階に達していない旨主張する。
しかしながら、叙上認定の如き被告人らの中央電報局々舎内立入り行為によつて惹起された法益の侵害の程度、被告人らの本件局舎立入り行為の目的およびその態様その他本件において現われた諸般の事情を考慮してみても、被告人らの本件行為の実質的違法性が可罰的な程度に達しないものとは認められないから、弁護人の右主張は採用できない。
(松浦秀寿 井上広道 竹中省吾)